ロジャナ・アユタヤ工業団地の解説

はじめに

タイの工業団地は、製造業を中心とした企業活動の拠点として、国の経済成長を支える重要な役割を果たしている。特にバンコク近郊に位置するアユタヤ県は、古都としての歴史的価値に加え、豊富な労働力や整備されたインフラを背景に、多国籍企業の集積が進む地域として知られている。

中でも、ロジャナ工業団地が開発・運営するロジャナ・アユタヤ工業団地は、多くの製造企業が拠点を構える重要な拠点である。同工業団地は、高度な生産設備と安定した事業環境を提供し、タイの産業発展において欠かせない存在となっている。

本記事では、ロジャナ・アユタヤ工業団地の特長を、立地、インフラ整備、産業クラスター、入居企業の視点から解説する。

特徴

立地とアクセス

ロジャナ・アユタヤ工業団地は、タイの首都バンコクから北へ約70〜80km、車で約1時間の距離に位置する。アユタヤ県はタイ中部にあり、高速道路や主要国道が発達しているため、バンコクのスワンナプーム国際空港やドンムアン空港、さらにはレムチャバン港へのアクセスが良好である。この立地により、輸出入業務の拠点に近接し、製品や原材料の物流を効率的に行うことが可能となっている。

近年、タイ政府は東部経済回廊（EEC）を推進し、バンコクから東部への交通インフラ整備を強化している。しかし、アユタヤ県を含む中部地域も産業集積地としての重要性を維持しており、首都圏外に製造拠点を分散させたい企業にとって、依然として有力な選択肢の一つである。さらに、アユタヤ県内には複数の工業団地が存在し、近隣エリア全体で部品調達やサプライチェーンの構築を進めることが可能である。このような環境が、ロジャナ・アユタヤ工業団地の競争力を高める要因となっている。

インフラと施設

ロジャナ・アユタヤ工業団地は、企業の生産活動に必要な基本インフラが整備されている。電力供給は、関西電力と日鉄物産が出資するロジャナ・パワー社（ROJANA POWER）が担い、停電リスクを低減するための発電所やバックアップ施設が近隣に配置されている。また、過去の洪水被害を踏まえ、水防・排水システムの強化や堤防の整備が進められており、防災対策の向上が図られている。アユタヤ県は2011年に大規模な洪水被害を受けたが、その後の防災関連投資により、リスク管理の水準が向上している。

工業用水の確保および水質管理においても、団地運営側が品質監査を実施し、一定水準の工業用水を企業に供給する体制が整っている。パサック川から豊富な工業用水の供給を受けることが可能であり、廃水処理設備や廃棄物処理業者との連携も確立されている。これにより、環境負荷の軽減と法令順守の両面で企業をサポートする仕組みが構築されている。さらに、通信インフラとして光ファイバーを活用した高速通信回線が利用可能であり、海外拠点とのオンライン会議や遠隔での生産管理を円滑に行うことができる。

加えて、団地内および周辺には住宅・サービスアパート、商業施設、医療機関、銀行の支店などが整備されており、駐在員や現地スタッフにとって快適な生活環境が提供されている。

産業クラスター

ロジャナ・アユタヤ工業団地で形成されている産業クラスターは多岐にわたるが、とりわけ自動車関連産業や電機・電子部品産業が目立つ。本節では、これら主要産業クラスターごとに特徴や動向を解説する。

自動車産業

タイは「東洋のデトロイト」と呼ばれるほど自動車生産が盛んで、自動車関連部品メーカーや組立工場が国内各地に多数集積している。ロジャナ・アユタヤ工業団地もその一角を担っており、エンジン部品やシャシー部品、車載用電子機器などを製造する企業が進出している。タイ国内市場だけでなくアセアン地域やその他地域への輸出拠点としても機能しているため、自動車関連メーカーが生産ラインを構築していることが特徴的である。

自動車産業は複雑なサプライチェーンを伴うため、部品サプライヤーや金型メーカー、物流企業などが近接することで高い協力体制を築くことが可能となる。ジャストインタイム（JIT）方式を採用している日本系企業にとっては、近距離で部品を調達できる利点は非常に大きい。こうした集積効果によって、品質管理や納期管理が効率化され、関連産業全体の競争力が高まっている。

• 主な入居企業
  • 本田技研工業
  • ニデック
  • パイオニア
  • エイチワン
  • 村上開明堂

電機・電子部品産業

ロジャナ・アユタヤ工業団地では、自動車産業に加え、電機・電子技術を扱う企業の進出も活発である。特に、センサーや制御基板などの車載用電子部品に加え、家電やコンピュータ周辺機器向けの基板や電子デバイスを生産する企業が多く集積している。タイはアセアン域内でも労働者の教育水準が比較的高く、電機・電子部品製造に必要な技能労働者や技術者を確保しやすいことが、このクラスター形成を後押ししている。

さらに、近年のIoT（モノのインターネット）化やデジタルトランスフォーメーション（DX）、さらには人工知能（AI）開発の進展により、電子部品メーカーにとって新たなビジネスチャンスが広がっている。ロジャナ・アユタヤ工業団地に入居する企業の中には、グローバルメーカーのEMS（電子機器受託製造サービス）を請け負う企業もあり、高度な組立技術や品質管理システムを活かして、世界各地へ電子部品や完成品を供給しているケースが目立つ。

• 主な入居企業
  • TDK
  • ニコン
  • パナソニック
  • 古河電気工業
  • フジクラ
  • 黒田電気

入居企業

ロジャナ・アユタヤ工業団地は、日系企業の進出先として広く知られている。タイの製造業における日系企業の存在感は、自動車産業や電機・電子産業を中心に極めて大きい。アユタヤ県においても同様であり、大手自動車メーカーの関連部品サプライヤー、家電・電子部品メーカーなどが多数集積している。

日系企業の多くは、タイをASEAN地域における生産・輸出拠点、あるいは域内市場へのゲートウェイと位置付けている。これに対し、ロジャナ・アユタヤ工業団地は、充実した産業クラスターと高度なサポート体制を備えており、企業のビジネスモデルの拡張や生産効率の向上を促進する好循環を生み出している。日本国内市場が成熟する一方で、ASEAN各国には依然として成長余地があり、アユタヤはその一翼を担う重要な拠点として今後も注目されるだろう。

日系企業一覧

以下に、ロジャナ・アユタヤ工業団地に入居する日系企業を示す。

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