アマタシティ・チョンブリ工業団地の特徴

はじめに
タイは、東南アジアにおける製造業の重要拠点として発展を遂げてきた。中でも、アマタ・コーポレーション(AMATA CORPORATION)が開発・運営するアマタシティ・チョンブリ工業団地は、国内最大規模を誇る工業団地の一つである。かつては「アマタナコン工業団地」として広く知られていたが、現在は「アマタシティ・チョンブリ工業団地」として名称を変更し、引き続き多様な業種の企業にとって重要なビジネスハブの役割を担っている。
本記事では、アマタシティ・チョンブリ工業団地の特長を、立地、インフラ整備、産業クラスター、入居企業の視点から解説する。
特徴
立地とアクセス
アマタシティ・チョンブリ工業団地の特徴は、その優れた立地条件である。タイ東部のチョンブリー県に位置し、首都バンコクから約60キロメートルの距離にあり、車で約1時間半のアクセスが可能である。さらに、スワンナプーム国際空港からの移動も容易であり、レムチャバン深海港にも近接していることから、海上輸送にも適した環境が整っている。この立地の優位性により、国内外への物流が効率的に行える点が大きな強みである。
また、アマタシティ・チョンブリ工業団地は、タイ政府が推進する「タイランド4.0」の方針に基づき、投資が奨励されている東部経済回廊(EEC:Eastern Economic Corridor)の一部に指定されている。このことから、同工業団地は国家戦略において重要な役割を担う産業拠点の一つとして位置づけられている。
インフラと施設
工業団地内には、電力、水道、通信設備などの基本インフラが高度に整備されている。電力供給については、地方電力公社から安定的な供給を受けることが可能であり、さらにアマタ・コーポレーションが自社で保有する発電所からの供給にも対応している。また、光ファイバー網が完備されており、高速インターネット環境の利用が可能である。加えて、洪水対策として効果的な排水システムが整備されており、自然災害への備えも万全である。
アマタシティ・チョンブリ工業団地の最大の特徴は、充実したファシリティサービスにある。総面積4,430ヘクタールの広大な敷地内には、従業員の生活を支える多様な施設が整備されている。住居環境としては、アパート、コンドミニアム、サービスアパート、ホテルなど多様な選択肢が提供されている。商業施設も充実しており、コンビニエンスストアや大型スーパーマーケット、レストランに加え、銀行、病院、学校などの生活に必要な施設が揃っている。さらに、アマタスプリングカントリークラブといったゴルフ場も併設されており、従業員が快適な生活を送るための環境が整っている。
産業クラスター
アマタシティ・チョンブリ工業団地は、タイ最大級の工業団地として、多種多様な業種のグローバル企業が集積し、それぞれが産業クラスターを形成している。これらのクラスターは、企業間の協力やサプライチェーンの効率化を促進し、タイの産業発展に大きく貢献している。以下に、具体的な4つの産業クラスターについて解説する。
自動車産業
タイは「東洋のデトロイト」と称されるほど自動車産業が発展しており、アマタシティ・チョンブリ工業団地はその中心的な拠点の一つとなっている。同工業団地には、自動車メーカーから部品サプライヤーまで多くの企業が集積し、効率的な製造・供給ネットワークを構築している。
- 主な入居企業
- トヨタ自動車
- 本田技研工業
- 日野自動車
- デンソー
- 豊田合成
- ブリヂストン
電気・電子機器産業
電気・電子機器産業は、タイにおける主要な輸出産業の一つである。 家電製品やコンピューター関連機器など、幅広い電気機器の製造拠点として、世界各国から多くの企業がこの工業団地に集結している。日系企業の進出も顕著であり、アマタシティ・チョンブリ工業団地にも多数の企業が拠点を構えている。
- 主な入居企業
- ソニー
- ダイキン工業
- 三菱電機
- 加賀電子
機械・設備産業
機械・設備産業は、あらゆる産業の製造基盤を支える重要なセクターである。産業用機械、建設機械、工作機械などを製造する企業が集積し、高品質な製品とサービスを提供することで、アマタシティ・チョンブリ工業団地内の製造業の発展を支えている。
- 主な入居企業
- 三菱重工
- 小松製作所
- クボタ
- DMG森精機
化学産業
化学産業は、製造業全般に必要な素材や材料を供給する重要なセクターである。プラスチック、ゴム、塗料、医薬品など、多岐にわたる分野で化学製品の需要は高い。アマタシティ・チョンブリ工業団地は、化学製品の原料調達や製造に適した環境が整っており、多くの化学メーカーが進出している。
- 主な入居企業
- AGC
- 花王
- 三菱ケミカルグループ
- 日東電工
入居企業
アマタシティ・チョンブリ工業団地は、日系企業の集積地として広く知られており、日系企業の存在感が極めて大きい。1980年代後半の円高を契機に、多くの日系企業が生産拠点を海外へ移転する動きが加速した。アマタシティ・チョンブリ工業団地もこの流れに沿い、1989年の開発以降、多くの日系企業が進出している。
2025年2月時点で、この工業団地には約790社が入居しており、そのうち日系企業は60%以上を占めている。このことからも、同団地が日系企業にとって重要な生産拠点であることがうかがえる。
日系企業一覧
以下に、アマタシティ・チョンブリ工業団地に入居する日系企業を示す。
会社名 | 親会社 | 業種 |
---|---|---|
SIAM TOYOTA MANUFACTURING | トヨタ自動車 | 輸送用機械 |
HONDA ENGINEERING ASIAN | 本田技研工業 | 輸送用機械 |
HINO MOTORS MANUFACTURING THAILAND | 日野自動車 | 輸送用機械 |
SIAM DENSO MANUFACTURING | デンソー | 自動車部品 |
MITSUBISHI TURBOCHARGER ASIA | 三菱重工 | 自動車部品 |
TOYODA GOSEI THAILAND | 豊田合成 | 自動車部品 |
YAMAHA MOTOR PARTS MANUFACTURING THAILAND | ヤマハ発電機 | 自動車部品 |
NITERRA ASIA | 日本特殊陶業 | 自動車部品 |
MARELLI THAILAND | マレリ | 自動車部品 |
SIAM CALSONIC | マレリ | 自動車部品 |
KYB THAILAND | カヤバ | 自動車部品 |
SONY TECHNOLOGY THAILAND | ソニー | 電子・電気部品 |
DAIKIN AIRCONDITIONING THAILAND | ダイキン工業 | 電子・電気部品 |
KAGA ELECTRONICS THAILAND | 加賀電子 | 電子・電気部品 |
MITSUBISHI ELEVATOR ASIA | 三菱電機 | 搬送機械 |
DMG MORI THAILAND | DMG森精機 | 工作機械 |
SIAM KUBOTA CORPORATION | クボタ | 建設・農業機械 |
BANGKOK KOMATSU | 小松製作所 | 建設・農業機械 |
NITTO MATEX THAILAND | 日東電工 | 化学 |
KAO INDUSTRIAL THAILAND | 花王 | 化学 |
DIC GRAPHICS THAILAND | DIC | 塗料・インキ |
MITSUBISHI CHEMICAL THAILAND | 三菱ケミカルグループ | 樹脂・ゴム |
TOYOBO CHEMICALS THAILAND | 東洋紡 | 樹脂・ゴム |
TOYOX ASIA THAILAND | トヨックス | 樹脂・ゴム |
BRIDGESTONE AIRCRAFT TIRE | ブリヂストン | ゴム成形 |
THAI NOK | NOK | ゴム成形 |
AGC AUTOMOTIVE THAILAND | AGC | ガラス・セラミック |
AGC FLAT GLASS THAILAND | AGC | ガラス・セラミック |
AISIN TAKAOKA FOUNDRY BANGPAKONG | アイシン高岡 | 鋳造 |
SUMITOMO ELECTRIC SINTERED COMPONENTS | 住友電気工業 | 特殊加工 |
PCM PROCESSING THAILAND | 淀川鉄鋼所 | 鉄鋼・非鉄金属 |
TOYOTA TSUSHO THAILAND | 豊田通商 | 卸売・小売 |
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